2016.06.20

「インバウンド」の本質が、函館のウニ丼に隠されていたっていう話し

 
「インバウンド」という言葉を聞かない日がないくらい、訪日外国人旅行者に向けたサービスや対応が盛んです。
 
CINRAも、HereNowはじめ、旅や海外とのコミュニケーションは注力しているフィールドです。実際に官公庁や行政、広告代理店などから観光メディアのご依頼をいただくことも増えました。
 
でもなぜか、「インバウンド」という言葉がまとっている空気感のようなものに、なかなか馴染めないでいます。
 
「インバウンド」以外にも、「爆買い」とか「越境EC」とか、そういう(語弊を恐れずに言えば、お金の匂いがする)キーワードに対してちょっと距離を置きたくなってしまいます。いや、ボランティアじゃなくてビジネスですから、忌避すべきものではもちろんないはずなんだけど。なんなんだろう、この違和感。と、ずっと思ってました。
 
ちょっと前の話ですが、今年のゴールデンウィークに、函館に行ってきました。そこで起きたちょっとした出来事で、自分なりに「インバウンド」っていう言葉が持つ核心に触れられた気がしたので、そのことについて書いてみます。
 
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2016年5月2日、函館でウニがうまいと評判のお店『うに むらかみ』にお邪魔しました。値段も手頃で地元のお客さんも多いお店です。
 
隣に座っていらしたのは、家族3世代でいらしていた方々でした。
構成としては、
 
・祖父母(たぶん50代後半)
地元の方。おじさんは地元中小企業経営者
 
・父母(たぶん20代後半)
関東で勤務していて、帰省してきた。旦那さんの地元が函館のよう。
 
・孫
生まれたばかりの赤ちゃん、男の子。

 
という5名様です。
 
 
お互い、生後5,6ヶ月の赤ん坊を連れていたこともあり、あちらのおじさんが気さくに話しかけてきてくれました。「そっちはもう寝返りしたのか」とか、「やっぱり女の子もいいなぁ」とか(こちらは女の子で、あちらは男の子だった)、「20年後に結婚式で再会しちゃったりしてな」とかとか。楽しい時間を過ごしていました。
 
そのうちに、函館の話しになって、
 
おじさん「お兄さん函館はどれくらいいるの?」
 
こちら「今晩一泊して、明日昼には札幌に向かいます」
 
おじさん「あぁ、みんな1泊しかしないんだよなぁ(すごく寂しそう)」
 
こちら「でも、海鮮おいしいし、港町の雰囲気がほんとに素敵ですね、函館」
 
おじさん「だろ!(超うれしそう) ここのウニ、札幌よりうまいから」
 
以降、函館自慢が続きました。
 
土地柄なのか、おじさんの気質なのか、その自慢話がまったく嫌なかんじがしなくて、本当にこの人は地元を愛しているんだなぁということがヒシヒシ伝わってきました。
 
おじさんもだいぶ酔っぱらってきたようで、「じゃ、また20年後に結婚式で会いましょう」ということで、あちらが先に帰られました(なんていい加減な)。
 
 
その後、お店の人がやってきて、
 
「さっきのお客様からです」
 
と、ウニ丼を持ってきてくださいました。
 
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(ご飯前の方、すいません。。。)
 
何も言わず、お礼もさせてくれず、おじさんはウニ丼をおごってくださったのでした。
 
——
 
旅先でこんな経験をしたことがある人は多いんじゃないかと思います。
多いんじゃないかと思いますが、このお礼が言えないもどかしさ!!!
 
20年後にほんとに子供の結婚式で会えないと、お礼は言えません。ウニ丼を頬張りつつ、どうしたもんかと考えました。
 
ちょっとして「あ、おじさんはもうすでにこちらに感謝してくれてたんだな」と気づきました。「ぼくが、函館に来た」っていうことに対してです。あのおじさんは函館代表として(少なくてもそういうつもりで)、ぼくに函館のことを散々自慢して、そして、ここに来てくれたことの感謝という意味で、ウニ丼をおごってくれたんだろうと思いました。
 
そういうわけで、もともとお礼でもらったウニ丼だから、さらにそのお礼をできないことのもどかしさは納めて、さらっと丼ぶりを平らげさせてもらうことにしました。
 
 
だらだら続いてしまったけど、これがインバウンドの本質なんだろうな、と思ったのです。
 
 
山ほどある旅行地の中で、そこを選び、はるばる来てくれた人に対する「感謝」と、自分が住む土地が好きすぎてついつい「自慢」したくなる気持ち。
 
この「感謝と自慢」が、インバウンドの核にあるべきものなんだと思います。
 
 
訪日外国人旅行者一人あたりの消費額をいくら増やせるか、滞在日数をどれだけ延ばせるか。もちろん大事な指標なわけですが、「いかにお金をいっぱい落としてもらうか」からスタートしたサービスでは、誰にも、何も伝わらない。自分が旅行者だとしたら、行く気も失せます。
 
日本を選んでくれた「感謝」と、日本のこれヤバいっしょ!という「自慢」の掛け合わせで、取り組んでいこうと思ったのでした。(20年後、結婚式でおじさんにお礼を言えることを願いつつ)