2013.01.20

【本】ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛

 
 

日頃、Amazonの悪口を聞くことが多い。
 

Amazonのせいで、書店やCDショップがどんどんつぶれている。
Amazonが、ひどい条件で出版社と契約を結ぼうとしてくる。
Amazonがいるから、誰も太刀打ちできない。
 

などなど。
 

でも、もちろん、Amazonを使っていない人はいない。
 

Amazon、というかジェフ・ベゾスほど、資本主義の仕組みを理解して、顧客が求めることと、社会(≒業界)にとって良いことは、必ずしもイコールではないことを知り、どんなきれいごとを言おうとも(それは往々にしてただの自己満足やひがみで終わってしまい)、社会は顧客が求める方向に流れていくということを熟知している人はいないんじゃないかと思う。
 

大型のショッピングモールやコンビニが、街の小さな商店街を駆逐していく。
重要な文化施設がファストファッションブランドにのっとられる。
貴重だと、一部の人に親しまれている雑誌が廃刊になる。
 

悲しいことはたくさん起こるわけだけど、それを悲しんだり批判するだけの人は、自分自身が何らか、その悲しい出来事の加害者であることを認識していない。何らかの利便性や効率を受け入れてしまった時点で(たとえばiPhoneを持つとか)、その競争は加速してしまうし、それはもちろん、不可避なこと。

 

ベゾスは、とんでもなく頭がいい。めっちゃいい。
人情は、あるのかわからない。。。
 

読んでみて、特に印象に残ったのは彼の3つの強さ。
 

■先見性
1990年代に、オンラインショッピングの可能性に気づき、プラットフォーマーがメーカーやあらゆる中間業者に対して有利になることを直感的に悟って、それがブレない強さ。
 

■徹底した顧客視点
どんな産業にも「業界」というものがあって、そこでしか通用しない言語や、そこでしか共有されていない価値や、過去の成功体験に依存したりする。それがベゾスには1ミリもない。顧客のことしか考えていない。それが結果的に、「圧倒的一番」になることを知っている。常に業界内から批判され、孤独でい続ける強さ、普通は持てない。
 

■利益を出さない
ドットコムバブル崩壊後を除いて、創業から今まで、利益を出すことをまったく重要視しない徹底的な姿勢。投資し続ける強さ。これも、よっぽどの自信か、株主を無視する鈍感力がないとできないこと。尋常じゃない。
 
 

この本で面白かったのは(冒頭の幼少期の部分はほんとに退屈…)、著者がかなりフラットで、ベゾスやAmazonの横行をキチっと批判していること。やり方がきたない部分が、多い。。。先行者利益と言えばそれまでだし、とんでもない努力をしてきているんだろうけど、善悪で考えれば、結構きたない。でも、たぶん誰も真似できない。
 
 

この3つの強さをベゾスが持てたのは、たしかに彼が天才的なCEOだからなわけだけど、一番大きいのは別のところにあるんじゃないかと思う。
 

ベゾスはそもそも、出版や本に対して愛着も興味もない、ということ。
 

はじめにオンライン書店をやろうと思った理由に、彼が本が好きだからという理由はたぶん1ミリもなかったということ。
 

美徳も、愛情も、業界関係者との人情もなく、完全な部外者が冷静に顧客のことだけを考え、効率を優先したときに、全部の無駄が排除される。そのクリアな視点が、先見性とか、顧客視点とか、利益を出さないとか、尋常じゃない彼の強さの源泉なんじゃないかと思う。
 

それがいいのかわるいのかということは、少なくてもジェフ・ベゾスにとってはどうでもいいことなんだろう。
 

いろいろ置いておいて、一消費者としては、はやく全部Kindleで読めるようにしてほしいなぁ。
 

ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛